インドネシア留学 ~持続可能な水環境を目指して~

将来、東南アジアを中心とした水環境保全に貢献するためにインドネシアで修行中です。

海外への水道技術提供のリアルな現場で感じたこと

海外での水道事業に関する技術提供の現場にて

前回紹介したインターン活動中に、浜松市水道局の方が、水道事業の技術提供という形でプロジェクトを行う現場にご一緒させていただく機会がありました。「海外での技術提供」という言葉の響きは単純にかっこよく、どこかキラキラしたイメージがありましたが、実際にリアルな現場に触れて初めて分かるような難しさを身をもって体感するとともに、プロジェクトをうまく進めるために大切なことについて、自分なりに思うことがありました。

 

深刻な無収水率の改善を目指して

日本は漏水技術に関して優れた技術を要しています。コストをかけて処理された水が、使用者のもとに届く前に配水管からの漏水などにより失われ、お金にならない水の割合を示す「無収水率」が、東京においては約3%と世界トップレベルの低無収水率を実現しています。一方バンドンでのそれは44%と非常に高く、持続可能な配水システムの構築のため早急な対策が必要な状況です。浜松市による主な技術提供の目的は、この「無収水率」を改善することです。プロジェクト全体は約3年ほど続く予定で、両国の技術者が互いの国を訪問し合いながら目的の達成を目指します。

今回参加させて頂いたプロジェクトでは、主に、バンドンにおける漏水の現状の把握と、配水管の正しい施工方法をまとめたマニュアルの作成を現地技術者、責任者と一緒に進めていきました。

 

 漏水の現状と原因

PDAMと浜松市の技術者の方々と一緒に、漏水が発生している現場の視察に同行させて頂きました。現地職員によると、漏水が発生しているパイプは、1か月前に設置されたばかりのものという事でした。耐用年数よりも大幅に早い段階で漏水が発生してしまった原因として、浜松市の方によると、施工が正しい方法で行われておらず、パイプ接合部に負荷がかかり、故障してしまっているとのことでした。

 

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浜松市の方が漏水している管の修復の仕方を直接指導しています

 

上のような問題を解決し、適切な方法で施工を行うため、浜松市とPDAMの施工マニュアルを比較しながら、現地に適したマニュアルを作成していこうという話を提案すると、なんと施工マニュアルが存在しないという事でした。日本人の常識からすると全く考えられませんが、現地技術者によると、上司から部下に直接口頭で教えることで、施工を進めているとの事でした。つまり、施工の方法は、「技術者各自の頭の中」だけに存在している状況で、認識の違いなどから施工ミスに繋がってしまっているようです。よって、マニュアルがあることにより、正しい施工方法を技術者全員がしっかりと理解し、毎回同じクオリティで作業を進められることや、新しい職員の教育効率化に活用できるという、極めて当たり前なマニュアル作成の意義を理解してもらうことからプロジェクトは始まりました。

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マニュアル無しで進められる施工の様子

文化、言語の違いによるプロジェクト進行の難しさ

早速ミーティングを組んで、浜松市側からどのような流れで一緒に施工マニュアルを作成していくか流れを説明し、それに沿っていざ話を進めようとしますが、これが中々思うように進みません。

まず、インドネシア職員の中から、「インドネシアではマニュアルを作成しても無くなって機能しなくなったり、作業記録を残す習慣もない。あったとしても担当者が変わるとそれがほとんど消えてしまう。」という意見がありました。逆に今までどうやって仕事が成り立ってたの?と思ってしまいますが、これが現状のようです。

また、言語の壁が大きな障害となりました。浜松市の方はミーティングの際、インドネシア語と日本語のできるインドネシア人の通訳の方を用意していましたが、どうしてもこちらの意向を伝えるのに時間がかかってしまうし、細かいニュアンスが相手方に正確に伝わっているか確認することも困難でした。

以上のことから、ミーティングが思うように進まず、最終的にはインドネシア人の集中力が切れてしまい、途中で急にたばこを吸いに出て行ってしまったり、大声で全く関係ない雑談を始め、しまいには冗談ながらも「もう疲れたから帰っていい?」と言い出す結末となってしまいました。

もちろん首都ジャカルタにあるような大企業とPDAMのようなローカルな水処理企業では現状は全く異なるとは思いますが、改めてグローバルなプロジェクトを進めていくうえでの異文化の壁の高さを感じた経験となりました。

 

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 ミーティングの様子

 

そこで今回感じた重要なことは、いかに相手に現状改善の重要性を伝え、自発的なモチベーションを起こしてもらうか。という事でした。相手方の積極的にプロジェクトに取り組むやる気を引き出せなければ、文化的慣習によるずさんなマニュアル管理など、ソフト面の改善は不可能だと思います。

じゃあどんなアプローチをしたらいいんだろう?という事を今回の経験から少し考えてみました。

 

 ① 相手方のキーマンを見つけ、現地職員を巻き込んでもらう

上のような問題を解決するために大切なことは、“相手の中のキーマンを見つけること”だと思っています。技術提供として一緒にプロジェクトを進める以上、プロジェクトを進める相手方のメンバーの中には、「必ず現状を変えたいと」本気で考え、こちらの提案に対し前向きな人がいるはずです。今回参加したミーティングでも非常に積極的に意見を出すインドネシア職員の方が数名いらっしゃいました。このようなモチベーションの高い職員の方に、そうでない方々を巻き込んでプロジェクトを進めてもらえるような流れが作れれば、日本側から一方的にプロジェクトを進行するような形よりもうまくいくのではないかと思います。なぜなら、外から来た人よりも、内部のリーダー的存在に説得された方が各自の“自発的なモチベーション”が生まれやすいはずだからです。普段から一緒に働いているメンバーからの言葉と、外部から来た人の通訳者を介した言葉では、同じ内容でも響き方が違うと思います。自分たちの伝えたい意向を、いかにして現地職員のキーマンに代弁してもらうか、これが文化的慣習から生ずる難しい課題の改善に必要だ強く感じました。

 

 ② 信頼関係を築くため、あえて「雑談」に戦略的に時間をかける

通常の日本人的な感覚の仕事においては、雑談なんかせずに集中し、いかに効率よくプロジェクトを進めていくかという事に重きを置くと思います。そのやり方が日本の文化に合っているからです。しかしここインドネシアでは、本当にみんな雑談が大好きです。一度始まるといつまででも喋っています。これは今までこちらの生活の中で、どこに行っても誰と会っても感じてきたことなので、インドネシアの一つの文化なのだと思います。その文化は仕事の際にも表れ、今回のプロジェクトにおけるミーティング中でも、平気で関係ない話を始める場面に多々出くわしました。

そこで、それを「早く終わんないかな、、、」と傍観するのではなく、むしろ信頼関係を築き上げる重要なプロセスと捉え、こちらからもあえて雑談を振るくらいの方がうまくいくのではないかと思います。一見、初対面でも常にニコニコしていて、人当たりのいいインドネシア人でも、本当に心を開いて接してくれるようになるには「いかに多くの雑談をするか」が重要であるという事を、今までの留学生活で痛感してきました。基本的に「日本人はシャイで、おしゃべりな人が少ない」という印象をこちらでは持たれているようなので、こちらから積極的に雑談を振るとみんなとても嬉しそうに返してくれます。仕事においても、雑談を通じて心を開いてくれれば、こちらの話にもより耳を傾け、積極的に参加してくれるような状況が作れるはずです。その結果として効率的なプロジェクト進行が可能になるのではないかと思います。雑談をプロジェクトの進行を妨げる障壁と考えるのではなく、重要なプロセスと認識することは非常に重要であると感じました。(もちろん雑談ばかりにならないように配慮することも必要ですが。。。)

 

 ③ 現地で活動するNGOや企業、大学生と協力する

技術提供において、自治体だけでなく、現地でのコミュニティへの接し方に慣れているNGOや、現地での仕事の進め方のノウハウのある日系水処理企業、課題解決に前向きで優秀な現地大学生などと手を組んでプロジェクトを進めていくことも非常に重要だと思います。自治体なら水道運営方法の知見、NGOなら現地の方々との信頼関係を築き上げるコミュニケーション力、企業なら金銭的な利益といった視点、現地大学生なら志の高い優秀な人材による現地調査など、それぞれの得意分野や役割をうまく融合させることで、より効率的で質の高いプロジェクトが可能なのではないかと思います。特に私が留学しているバンドン工科大学では、そのような国際的なプロジェクトが好きな人が数多くいるので、共に協力できれば大きな力として活躍してくれると思います。

 

以上、水処理分野の技術提供の現場に参加させて頂くという、貴重な経験から見えた現状と思ったことでした。今回改めて、技術提供などのプロジェクトの場において、現地の方々に“教える”のではなく、“参加”してもらい、共に課題解決に立ち向かう姿勢が重要なことを、身をもって体感しました。まだまだ未熟な私が偉そうなことを言って大変恐縮ですが、少しでも現状を知るきっかけになればと思います。