インドネシア留学 ~持続可能な水環境を目指して~

将来、東南アジアを中心とした水環境保全に貢献するためにインドネシアで修行中です。

現地水処理企業インターンで見えた課題

 

現地水処理企業でのインターン

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研究活動と並行して、約二か月間、上水処理と下水処理を包括的に運営する、公営水処理企業でインターンを行いました。主な目的は、現地の水処理の現状を現場目線で知ることで、今後どのような改善が必要か考えることです。

そこで、インターンを通じて見えた主な処理方法、料金徴収体系などの現状に加え、発見した課題について、上水道、下水道に分類し述べていきたいと思います。また、インターンはほぼすべてインドネシア語で行ったため、(頑張りました。。。)細心の注意を払いましたが、多少事実と異なる内容が含まれる可能性も考慮して頂けると幸いです。

 

インドネシアの水処理は、PDAMと呼ばれる地域ごとにある公営の水処理企業により行われています。日本で言う自治体の水道局のような仕組みです。そこで、今回は私が滞在するバンドンにある、「PDAMバンドン」にてインターン活動をさせて頂きました。

 

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上水道部門トップの方とのミーティングの様子

 

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毎日二回行われる水質試験

 

海外からの支援による上水設備

まず率直な印象は、「思ったよりも処理設備がしっかりしている」というものでした。上水処理における設備については、オランダなどからの支援により、最新のモニターシステムが導入されています。処理方式についても、凝集沈殿法という日本でも一般的なプロセスが採用され、基本的に24時間の水道供給を実現しています。

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モニタリングシステム。流入水量などがリアルタイムでわかる

 

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処理設備の一部

 

また、良質な水道サービスを維持する上で重要な料金体系ですが、日本と同様に、水道に接続している家庭や工場にメーターが取り付けられ、使用量から徴収料金を計算する仕組みです。また、価格についてですが、ここでは各家庭においては家の大きさ、公共施設においては重要度、工場では規模の大きさにより同じ使用量でも水道水の価格が異なります。公共上最も重要と位置付けられているモスク(イスラム教徒がお祈りを行う場所)では非常に安い一方、大規模工場などは公共施設に比べかなり高くなっています。PDAMはこの料金徴収体系により黒字を維持しており、現状の水処理システムを維持するのには十分という事ですが、設備の更新や、さらに優れた処理プロセスの導入を行うには政府の援助が必要な状況のようです。 そのため、なかなか政府からの予算が来ず、更新が遅れてしまっている施設も少なくないようです。

 

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資金状況についてファイナンシャル部門にて 説明頂きました。

 

乾季における水不足

インドネシアには雨季と乾季があります。乾季になると著しく雨量が減るため、水源の水量も減少します。それに伴い供給できる水道水の量も低下するため断水が必要になってしまいます。しかもこの断水は予告なく行われるため、住民は非常に困ることになります。事前に断水実施を知らせる告知システムの確立、乾季時の水源不足に備えた河川以外の水源(雨水、地下水等)の有効活用などが必要になります。

 

年々上昇する高い無収水率

配水管の老朽化や、施工マニュアルが存在せず、間違った方法での施工による寿命低下、漏水対策の遅れなどにより無収水率(処理場で処理された水が、各家庭、施設に配水される途中において、漏水等により失われ、お金にならない水の割合)は2014年には33%でしたが、2016年には44%までに急増しています。要するに、せっかく水道水として使えるようにきれいにした水の約半数近くが使用者のもとに届かず無駄になってしまっています。この高い無収水率を改善することで、結果的に水源不足の解決や安定した財政基盤の構築にも繋がります。現在、この無収水率改善のために、バンドンと姉妹都市提携を結んでいる浜松市が技術提供を行っています。

 

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浜松市による漏水現場の視察 

 

処理により発生する汚泥はそのまま川に垂れ流し

これはかなりびっくりしましたが、処理後に発生する有機物、重金属などの汚染物質を多く含む汚泥は、処理されることなく河川にそのままポンプで垂れ流しているとのことでした。しかもどの程度の量を垂れ流しているのか誰も把握していないとの事です。これは水源汚染を悪化させることに繋がり、結果として処理コストの上昇に繋がります。早急な汚泥処理システムの構築が必要です。

 

日本製品に対する「高い」という第一印象

都市化に伴う水源汚染、水需要の増加により、持続的な水供給システムのために既存設備の更新が必要な状況となっています。そのため海外からの水処理製品も、インドネシアの仲介業者を通じ積極的に取り入れていこうという姿勢があるようです。この需要は優れた水処理製品をもつ日本としては大きなチャンスですが、現地責任者の声は、日本製品は高いから、、、」というのが現状であり、そのイメージから中々日本製品が選択肢にすら入らないようです。他国の製品に比べ、ライフサイクルコストも含めた経済性、性能のメリットを十分に伝え、理解してもらわないと大きなシェアを獲得することは難しいようです。 

 

下水処理場は早急な対策が必要

バンドンで発生する下水は、下水道管に接続されている場合は下水道管を通じてすべてBojong Soangと呼ばれる下水処理場に運ばれます。処理方式は安定化池と呼ばれる東南アジア諸国では一般的な、極めてシンプルな方式が採用されています。この方法では広大な湖において、自然浄化作用によって処理が行われています。しかし処理水は、インドネシアにおいて定められた排水基準を超える場合も多く、良好な処理状況とは言えない状況です。

 

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東南アジアなどでは一般的な「安定化池」と呼ばれる処理方法

 

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下水処理部門の方から現状の問題や今後のプランについてお話しいただきました

 

処理過程で発生する汚泥がほったらかしに

処理に伴い湖内で発生する汚泥(ごみ)が適切に処理されておらず、湖内に放置され年々蓄積しています。そのため、設計時に計画された良質な処理を行うために必要な水深のわずか5分の1程度まで浅くなってしまっており、これが処理水質の悪化を招いています。最後に汚泥の除去が行われたのはなんと10年以上前だとのことです。これだけ長くの間放置されってしまっている背景には、汚泥を取り除くには重機が必要であり、大きなコストがかかる事に加え、湖内から引き抜いた汚泥の効率的な処理方法が存在しないことなどが挙げられます。

この問題を解決するためには、まずはインドネシアの汚泥の特性を調べ、現地の状況に合わせた適切な処理方法を明らかにすることが重要になります。何とか本留学中にこれを実現できるよう日々研究室にて奮闘しています。

 

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処理場横に設置された汚泥を乾燥させて処理するための場所。最後に使われたのは10年以上前 

 

 以上、インターンを通じて感じたインドネシア、バンドンにおける水処理の現状と課題です。自身の研究分野と実際の水処理現場の繋がりを深く学べたことに加え、日本による技術提供の現場も拝見することができ、非常に有意義な機会となりました。