インドネシア留学 ~持続可能な水環境を目指して~

将来、東南アジアを中心とした水環境保全に貢献するためにインドネシアで修行中です。

現地で目にした水環境の現状・課題から対策を考えてみた

皆さん、日本で生活する中で、使用した水がその後どうなるか意識したことがあるでしょうか。 普通に生活していればなかなかそんな機会はないと思います。。。

なぜなら、日本では日々の生活で使用した水(下水)は下水処理場にて適切に処理され、河川などに放流されるのが当たり前だからです。しかしここインドネシアをはじめとする東南アジア諸国では全く状況が異なり、下水道整備はかなり遅れているのが現状です。

 未整備の衛生環境による莫大な経済損失

東南アジアは世界の他の地域と比較しても、適切な処理がなされない下水などが原因で発生している健康被害、水源汚染等による経済的損失は莫大であり、インドネシアに至ってはその額は7兆円にも及ぶと言われています。

 

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(引用:https://www.lixil.com/jp/sustainability/sanitation/findings.html

 

東南アジア諸国では、今後さらなる経済発展、人口増加に伴う水処理需要の増加が見込まれる中、このままではさらに水環境に関連する問題が深刻化することが懸念されます。逆に考えると、この問題は人々の生活に直結するため、今後必ず国から投じられる予算が増えていき、本分野において優れた技術、ノウハウをもつ日本にとっては大きなビジネスチャンスと捉えることもできます。このチャンスをものにすると同時に、各国の水環境改善や、さらなる経済発展に貢献できるとしたらかなりハッピーじゃないか、と個人的に思っています。

 

そこで以下に、実際に現地で目にして感じた現状や課題から、今後インドネシアにおいて水環境改善のためにどのような対策が必要であるのかを、少し専門的な観点と、今話題のIoTの活用などを交え、自分なりにまとめてみました。

 

バンドン唯一の下水処理場 「Bojong soang」

インドネシア第三の都市と呼ばれ、200万人以上の市民を抱えるここバンドンには、なんと一か所しか下水処理場がありません。それがこのBojong sonangです。

 

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この広大な湖のように見えるのが、安定化池と呼ばれる下水を処理する池になります。この方式は低コストでメンテナンスが容易なことから、東南アジアを中心に多く採用されています。日本の下水処理では多くの場合、活性汚泥法と呼ばれる高度な処理が行われますが、この処理方式において下水の浄化に利用されるのは、重力と湖内に棲む微生物による代謝のみです。

一見安価で優れた方法に見えますが、実際に訪れたところ、運転管理に問題が確認されました。具体的には、汚水が浄化される際に発生するゴミ(汚泥)が取り除かれずにそのまま湖内に放置されているため、処理効率が低下してしまっていました。結果として、定められた排水基準を満たせていない処理水がそのまま環境中に放流されているとのことでした。

湖内に蓄積した汚泥の適切な引き抜き作業が行えていない理由として、汚泥を脱水し、肥料として有効利用するために必要な天日干しを行うスペースが埋まってしまっていること、広大な敷地のため頻繁に汚泥を引き抜く作業を行うことが難しい等といった理由があるようです。

インドネシアでは、今後国家計画として下水道普及を進めていくとしていますが、このままでは下水処理場を新設しない限り、処理場への下水の流入量を増やすことは厳しいと感じました。持続可能な下水処理システムを構築するには、この汚泥を効率的に、安価に処理するとともに、有効利用する技術がキーになりそうです。このような技術の開発を目指し、現在バンドン工科大学にて、日本の技術利用を視野に入れた処理システムの研究を進めています。

 

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(実際のサンプリングの様子)

 

下水道未整備の地域では

現在私のいるバンドンでは、コストの問題、地形の問題などでそもそも下水道に接続されていない住宅密集地が数多くあるのが現状です。そのような地域ではどのように生活排水やトイレの排水処理が行われているのかというと、コミュニティ浄化槽と呼ばれる、小型の簡易な浄化設備が各地に設置されているケースがあります。(http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/)これを利用することで、個人レベルで安価に排水処理を行なうことができるため、下水道未接続地域が多く残る東南アジアでは非常に注目されている技術です。実はこの技術、日本では古くから開発が進められ、既に日本製の浄化槽が東南アジアにおいて導入されているケースも存在します。

 

しかしながら、実際にある住宅地にて設備を見てみると、全く適切な運転管理がなされておらず、排水が未処理のまま垂れ流しになっているのが現状でした。ある報告によると、正常に機能している浄化槽は全体の内、約5%に過ぎないとのことです。(http://indonesia-news.biz/?p=3758)せっかく優れた性能を持っている設備を導入しても、適切に利用、管理されなければ意味がありません。

 

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 (放置されて使われていない浄化槽)

 

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(未処理の排水が直接河川などへ流されている)

 

原因としては、住民の水環境への意識の低さや、運転管理ノウハウが理解されていないことなどがあるようです。結果として浄化槽は故障したまま放置され、未処理排水による河川の汚染が進んでしまっています。これを防ぐには、適切な管理が行われていない地域をいち早く発見し、適宜指導を行うことや、定期点検によるメンテナンスへの介入が最も重要だと思われます。しかし、多くの地域にバラバラに設置された浄化槽について効率的に運転管理の状況を確認することは現状では極めて難しいかと思われます。

 

これまでに上げてきた以外にも多くの課題が存在しますが、以下に今回感じた問題点とそれに対する解決策を自分なりにまとめてみました。

 

問題点のまとめ

下水処理場からの排水が環境基準を満たせておらず、このままでは下水道普及率の上昇に伴う処理水量の増加に対応することが難しい。今回紹介した安定化池という処理方式では、発生する汚泥が適切に処理されていないことが処理効率低下の原因となっている。

・コミュニティ浄化槽は、下水道未接続地における水環境改善に寄与することが期待されるが、適切な運転管理が実施されず正常に機能していない場合が多い。そもそも各地に散らばって設置されている浄化槽について、効率的に運転状況を把握し、必要な対策を行うことが難しい。

対策

・処理により発生する汚泥の効率的な処理の導入が必要不可欠化だと思います。広大な敷地を要する、天日干しによる肥料化以外の汚泥の有効利用、処理方法(汚泥中の有機物を微生物の代謝によりエネルギーとして利用可能なバイオガスに変換し利用する等)の検討、導入が必要になってくるかと思います。

 

・浄化槽にIoT(Internet of Things)を導入し、位置情報や運転状況の可視化により、地域ごとの一括管理などができれば、住民への技術指導や定期点検の効率化などが実現できるのではないかと考えています。例えば、可視化されたデータを利用することで「あそこの地域の浄化槽、定期点検から間もないのに全体的に処理効率が落ちてるな。おそらく住民による運転がうまく行われていないから一度正しい運転方法の指導に出向いた方がよさそうだな」といったようなアプローチを行うことが可能になると思います。ゼロからそのようなインターネット機能を持つ浄化槽を開発するのは難しいかもしれませんが、既存の機器に設置するだけでモニタリングを行うことができる小型のタイプの製品がすでに日本企業により開発されたりしています。(http://economic.jp/?p=74796)このような最新技術と掛け合わせることで、浄化槽の持つメリットを最大化できるのではないかと思います。

 

・日本のように下水処理場にてすべての下水を処理する“集中型処理”はインドネシアをはじめとした東南アジアでは事情が異なり難しいと思います。したがって下水処理場による集中型下水処理と、浄化槽を利用した個人レベルの分散型下水処理を効率的に組み合わせていくことが重要になるかと思います。ガラパゴス携帯が普及する前にスマートフォンが急速に普及した国があるように、しっかりとした既存のシステム基盤が存在しないからこそ、IT技術を掛け合わせた効率的な次世代型システムをゼロから導入することができるのではないかと思っています。

 

以上、グローバルな視点からとらえた水環境の問題の現状、解決策が少しでも視野を広げるきっかけとなれば幸いです。