インドネシア留学 ~持続可能な水環境を目指して~

将来、東南アジアを中心とした水環境保全に貢献するためにインドネシアで修行中です。

英語には果たせない、話相手の母国語がもつ重要な役割とは

外国人とのコミュニケーションにおいて大事なのは英語だけじゃない

 

英語圏ではないインドネシアで生活する中で、拙いながらもインドネシア語を喋れるようになって気づいた事があります。

 

それは、非ネイティブの方とコミュニケーションする時における、“話相手の母国語がもつ重要な役割です。

 

では私がこの留学生活の中で気づいた、その重要性を「信頼」、「楽しさ」、「希少性」という3つの切り口から、本留学での実体験を踏まえお伝えできればと思います。

 

得られる信頼感が全く違う

正直インドネシアに来た当初は、バンドン工科大学の生徒はみんな英語が喋れることもあり、あまりインドネシア語学習へのモチベーションは高くありませんでした。ある程度英語が喋れれば別に困ることはないだろう、と単純に考えていたのです。実際に現地の学生と英語で楽しくお喋りすることができたので、それで最初は満足していました。買い物やレストランでの食事などの日常生活においても、物の値段を聞き取れたり、「ありがとう」といった最低限の現地語が分かれば特に困ることもなく生活できてしまうので、なおさらモチベーションは低いままでした。

 

しかし、色々あって短期間だけインドネシア語コースを受講することになりました。受講料も割と高額だったため「正直別に要らないなぁ・・・」なんて最初は思っていました(笑)。しかし、せっかくお金をかけて授業を受けたんだからと思い、試しに覚えたてのカタコトのインドネシア語を現地学生との会話で話のネタ程度に使ってみると、「おぉーーー!!!」と物凄く喜んでくれたんです。イメージ的には、日本で外国人が簡単な日本語を拙いながらも頑張って喋っているのを聞いたら、かわいいと感じたり、“親近感”が湧くあの感じと同じなんだろうなぁとこの時気が付きました。 それからは、インドネシア語を使うと相手が喜んでくれるのが単純に嬉しくて、それをモチベーションに勉強し、何とか簡単な日常会話程度なら出来るようになりました。

 

そして、なるべくインドネシア語で友達と会話をするようになると、ある変化が起きました。

 

英語でコミュニケーションを取っていた時にあった、"見えない壁"がどんどん消えていきました。その時は気づきませんでしたが、どうしても英語で話している時は、日本から来た"お客さん"のままだったんです。

 

インドネシア語で話すようになると、今までよりもう一歩踏み込んだ話題や、冗談を言い合うような機会が増え、会話の盛り上がり具合が確実に変化しました。それに伴って、明らかに以前よりも心理的距離が縮まりました。向こうから話しかけてくれることも増え、ようやく本当の意味での仲間に入れてもらえました。この時、一見かなりフレンドリーなインドネシア人でも、英語で話しているときはある程度の気を使われていたことに気づきました。

 

実際にある大きな日系企業インドネシア支社で働くインドネシア人の方にお会いした際に、「上司の日本人はもう何年もインドネシアに駐在しているのに全くインドネシア語を喋れないし、おそらく話そうとする気も全くない」と悲しそうな顔で話していたのが非常に印象に残っています。 海外に出たら英語が大事!と常に言われ続ける日本にいると見落としがちですが、相手の母国語を少しでも覚え、相手に寄り添う姿勢を見せることで得られる信頼感や親近感は、英語だけでは絶対に得られません。

 

 シンプルに楽しい

今まで色々とそれっぽいことを言ってきましたが、相手の母国語で会話をすることは単純に楽しいです。非ネイティブとの会話において、相手の言葉で冗談を言えば、会話の温度感は英語よりも断然に上がります。また、こちらがそのような姿勢でいれば自然と相手も日本語に興味を持ってくれる場合もあると思います。現在私は留学生専用の寮でアフリカ、ヨーロッパ、アジアなど様々な国籍の学生と生活していますが、みんなが「オハヨー!」とお辞儀しながら挨拶してくれたり、日本の女の子のナンパの仕方を教えてくれというので「コンド、ノミイコウ!」と教えて、実際にふざけて使ってみて断られている場面を見てみんなでゲラゲラ笑ったりしています(笑)。そういったやり取りは理屈抜きで純粋に楽しいです。

 

こうしてお互いの母国語の話をしていると、そこから文化の違いにまで会話が広がることもあります。例えば“昨日”という言葉ですが、インドネシア語では ”Kemarin” (クマリン)と言います。しかしこの単語は昨日という意味のほかに、昨日よりも前のことを指す「この前」という意味も持ちます。これでは会話でこの言葉が使われた際、それが「昨日」を指すのか、「昨日よりも前」を指すのか分かりません。この表現に疑問を持ち、これじゃいつのことを話してるのか分からないから困るんじゃない?とインドネシア人の友人に聞いたところ、「まあ別にそんな変わんないからいいんじゃない?」と言われてしまいました。時間に対する感覚の緩いインドネシアならではだなーと(笑)。

このように言語は国民の感性や文化の違いを反映している場合も多く、お互いを深く理解するキッカケにもなり得ます。安っぽい表現ではありますが、これって単純にとても楽しいことだと思います。

 

AIの発展により高まる「希少性」

英語が堪能な学生が多く在籍する非英語圏の大学で留学していて気づいたのは、英語が喋れること自体は別に何もすごくないという事です。よく考えれば当たり前なのですが、英語が喋れる相手と関わる中で、自分が英語を使えても別に相手は何もすごいと思わないわけです。それは現在の世界共通言語が英語であり、英語話者の約7割は非ネイティブであるこの世界において、英語は「伝えたいことを相手に伝えるためのツール」に過ぎないからです。日本にいると、英語を喋れることがすごい事であるかの様にどうしても思ってしまいます。しかし英語が喋れることの本来の意義は、この世界共通のツールと、自分の専門性という二つの要素を掛け合わせ、自分の価値を高めることでグローバルな場において活躍することだと思います。そのため英語が喋れることは、それ自体は特別すごいことではないけれど、自分の持っているもの、できることを発信するために必要な要素である、という認識でいます。

 

しかし現在AIの発展により、発話と同時に翻訳結果を出力できる機械などが話題となっています。そんな技術発展の目まぐるしい現代において、自分の価値を担保するための「伝えたいことを伝えるためのツール」である英語という要素の希少性は、非ネイティブと関わる中ではこの先どんどん低下していくと思います。なぜなら、伝えたいことを伝えるための英語の役割は、人が行うよりも機械の方が効率よく行うことができる、代替可能な要素だと思うからです。

 

そのような世の中の流れにおいて、先に述べたような「信頼を築くためのツール」として非常に大きな力を持つ”話相手の母国語”はどうでしょうか。今後いくら技術革新が進んでも、人と人が関わり合う中においては、“信頼”がもっとも重要なことは言うまでもないと思います。これは機械ではなく人にしか作り出すことができない、実に人間的な感覚のはずです。機械を通じて他の国籍の方とコミュニケーションを行うことが当たり前の世の中になればなるほど、自分の言葉でこのツールをうまく使い、相手の信頼を得ることのできる人材の希少性はさらに高まっていくに違いありません。

また、まだこのような世界が来るのはしばらく先だとしても、英語を使うことが当たり前のグローバルな場において、話相手の母国語を少しでも喋ることで、相手に「おっ!」と好印象を与えることができれば、他人との大きな差別化が図れます。この先グローバルな場において、自分の価値を担保するために必要な英語、専門性に加え、 “話相手の母国語”を三つ目の要素として掛け合わせることが、より自分の希少性を高めることに繋がるのではないかと思う次第です。

 

以上、本留学で感じた話相手の母国語の重要性でした。もちろん、英語だけでは相手との信頼を築くことができないという意味では全くありません。英語にもできることはご存知のようにたくさんあります。その英語とは別に、付加価値として話相手の母国語が大きな力を持つという事です。

もちろんそれをを日常会話レベルまで習得することはかなりハードルが高いとは思いますが、少しでも話そうとする姿勢を見せることで、相手への親和性は格段に上がると思います。もし非ネイティブの方と接する機会があるときには、是非とも簡単なあいさつや相づちだけでも相手の言語をってみてください。ググったらすぐに出てくるでしょうし、それが面倒であれば直接相手に「Helloってあなたの国の言葉でなんて言うの?」とまずは聞いてみるだけでもいいと思います。自分の国の言葉に興味を持ってくれたら必ず嬉しいし、きっと楽しそうに教えてくれて会話も盛り上がるはずです。

 

海外への水道技術提供のリアルな現場で感じたこと

海外での水道事業に関する技術提供の現場にて

前回紹介したインターン活動中に、浜松市水道局の方が、水道事業の技術提供という形でプロジェクトを行う現場にご一緒させていただく機会がありました。「海外での技術提供」という言葉の響きは単純にかっこよく、どこかキラキラしたイメージがありましたが、実際にリアルな現場に触れて初めて分かるような難しさを身をもって体感するとともに、プロジェクトをうまく進めるために大切なことについて、自分なりに思うことがありました。

 

深刻な無収水率の改善を目指して

日本は漏水技術に関して優れた技術を要しています。コストをかけて処理された水が、使用者のもとに届く前に配水管からの漏水などにより失われ、お金にならない水の割合を示す「無収水率」が、東京においては約3%と世界トップレベルの低無収水率を実現しています。一方バンドンでのそれは44%と非常に高く、持続可能な配水システムの構築のため早急な対策が必要な状況です。浜松市による主な技術提供の目的は、この「無収水率」を改善することです。プロジェクト全体は約3年ほど続く予定で、両国の技術者が互いの国を訪問し合いながら目的の達成を目指します。

今回参加させて頂いたプロジェクトでは、主に、バンドンにおける漏水の現状の把握と、配水管の正しい施工方法をまとめたマニュアルの作成を現地技術者、責任者と一緒に進めていきました。

 

 漏水の現状と原因

PDAMと浜松市の技術者の方々と一緒に、漏水が発生している現場の視察に同行させて頂きました。現地職員によると、漏水が発生しているパイプは、1か月前に設置されたばかりのものという事でした。耐用年数よりも大幅に早い段階で漏水が発生してしまった原因として、浜松市の方によると、施工が正しい方法で行われておらず、パイプ接合部に負荷がかかり、故障してしまっているとのことでした。

 

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浜松市の方が漏水している管の修復の仕方を直接指導しています

 

上のような問題を解決し、適切な方法で施工を行うため、浜松市とPDAMの施工マニュアルを比較しながら、現地に適したマニュアルを作成していこうという話を提案すると、なんと施工マニュアルが存在しないという事でした。日本人の常識からすると全く考えられませんが、現地技術者によると、上司から部下に直接口頭で教えることで、施工を進めているとの事でした。つまり、施工の方法は、「技術者各自の頭の中」だけに存在している状況で、認識の違いなどから施工ミスに繋がってしまっているようです。よって、マニュアルがあることにより、正しい施工方法を技術者全員がしっかりと理解し、毎回同じクオリティで作業を進められることや、新しい職員の教育効率化に活用できるという、極めて当たり前なマニュアル作成の意義を理解してもらうことからプロジェクトは始まりました。

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マニュアル無しで進められる施工の様子

文化、言語の違いによるプロジェクト進行の難しさ

早速ミーティングを組んで、浜松市側からどのような流れで一緒に施工マニュアルを作成していくか流れを説明し、それに沿っていざ話を進めようとしますが、これが中々思うように進みません。

まず、インドネシア職員の中から、「インドネシアではマニュアルを作成しても無くなって機能しなくなったり、作業記録を残す習慣もない。あったとしても担当者が変わるとそれがほとんど消えてしまう。」という意見がありました。逆に今までどうやって仕事が成り立ってたの?と思ってしまいますが、これが現状のようです。

また、言語の壁が大きな障害となりました。浜松市の方はミーティングの際、インドネシア語と日本語のできるインドネシア人の通訳の方を用意していましたが、どうしてもこちらの意向を伝えるのに時間がかかってしまうし、細かいニュアンスが相手方に正確に伝わっているか確認することも困難でした。

以上のことから、ミーティングが思うように進まず、最終的にはインドネシア人の集中力が切れてしまい、途中で急にたばこを吸いに出て行ってしまったり、大声で全く関係ない雑談を始め、しまいには冗談ながらも「もう疲れたから帰っていい?」と言い出す結末となってしまいました。

もちろん首都ジャカルタにあるような大企業とPDAMのようなローカルな水処理企業では現状は全く異なるとは思いますが、改めてグローバルなプロジェクトを進めていくうえでの異文化の壁の高さを感じた経験となりました。

 

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 ミーティングの様子

 

そこで今回感じた重要なことは、いかに相手に現状改善の重要性を伝え、自発的なモチベーションを起こしてもらうか。という事でした。相手方の積極的にプロジェクトに取り組むやる気を引き出せなければ、文化的慣習によるずさんなマニュアル管理など、ソフト面の改善は不可能だと思います。

じゃあどんなアプローチをしたらいいんだろう?という事を今回の経験から少し考えてみました。

 

 ① 相手方のキーマンを見つけ、現地職員を巻き込んでもらう

上のような問題を解決するために大切なことは、“相手の中のキーマンを見つけること”だと思っています。技術提供として一緒にプロジェクトを進める以上、プロジェクトを進める相手方のメンバーの中には、「必ず現状を変えたいと」本気で考え、こちらの提案に対し前向きな人がいるはずです。今回参加したミーティングでも非常に積極的に意見を出すインドネシア職員の方が数名いらっしゃいました。このようなモチベーションの高い職員の方に、そうでない方々を巻き込んでプロジェクトを進めてもらえるような流れが作れれば、日本側から一方的にプロジェクトを進行するような形よりもうまくいくのではないかと思います。なぜなら、外から来た人よりも、内部のリーダー的存在に説得された方が各自の“自発的なモチベーション”が生まれやすいはずだからです。普段から一緒に働いているメンバーからの言葉と、外部から来た人の通訳者を介した言葉では、同じ内容でも響き方が違うと思います。自分たちの伝えたい意向を、いかにして現地職員のキーマンに代弁してもらうか、これが文化的慣習から生ずる難しい課題の改善に必要だ強く感じました。

 

 ② 信頼関係を築くため、あえて「雑談」に戦略的に時間をかける

通常の日本人的な感覚の仕事においては、雑談なんかせずに集中し、いかに効率よくプロジェクトを進めていくかという事に重きを置くと思います。そのやり方が日本の文化に合っているからです。しかしここインドネシアでは、本当にみんな雑談が大好きです。一度始まるといつまででも喋っています。これは今までこちらの生活の中で、どこに行っても誰と会っても感じてきたことなので、インドネシアの一つの文化なのだと思います。その文化は仕事の際にも表れ、今回のプロジェクトにおけるミーティング中でも、平気で関係ない話を始める場面に多々出くわしました。

そこで、それを「早く終わんないかな、、、」と傍観するのではなく、むしろ信頼関係を築き上げる重要なプロセスと捉え、こちらからもあえて雑談を振るくらいの方がうまくいくのではないかと思います。一見、初対面でも常にニコニコしていて、人当たりのいいインドネシア人でも、本当に心を開いて接してくれるようになるには「いかに多くの雑談をするか」が重要であるという事を、今までの留学生活で痛感してきました。基本的に「日本人はシャイで、おしゃべりな人が少ない」という印象をこちらでは持たれているようなので、こちらから積極的に雑談を振るとみんなとても嬉しそうに返してくれます。仕事においても、雑談を通じて心を開いてくれれば、こちらの話にもより耳を傾け、積極的に参加してくれるような状況が作れるはずです。その結果として効率的なプロジェクト進行が可能になるのではないかと思います。雑談をプロジェクトの進行を妨げる障壁と考えるのではなく、重要なプロセスと認識することは非常に重要であると感じました。(もちろん雑談ばかりにならないように配慮することも必要ですが。。。)

 

 ③ 現地で活動するNGOや企業、大学生と協力する

技術提供において、自治体だけでなく、現地でのコミュニティへの接し方に慣れているNGOや、現地での仕事の進め方のノウハウのある日系水処理企業、課題解決に前向きで優秀な現地大学生などと手を組んでプロジェクトを進めていくことも非常に重要だと思います。自治体なら水道運営方法の知見、NGOなら現地の方々との信頼関係を築き上げるコミュニケーション力、企業なら金銭的な利益といった視点、現地大学生なら志の高い優秀な人材による現地調査など、それぞれの得意分野や役割をうまく融合させることで、より効率的で質の高いプロジェクトが可能なのではないかと思います。特に私が留学しているバンドン工科大学では、そのような国際的なプロジェクトが好きな人が数多くいるので、共に協力できれば大きな力として活躍してくれると思います。

 

以上、水処理分野の技術提供の現場に参加させて頂くという、貴重な経験から見えた現状と思ったことでした。今回改めて、技術提供などのプロジェクトの場において、現地の方々に“教える”のではなく、“参加”してもらい、共に課題解決に立ち向かう姿勢が重要なことを、身をもって体感しました。まだまだ未熟な私が偉そうなことを言って大変恐縮ですが、少しでも現状を知るきっかけになればと思います。

現地水処理企業インターンで見えた課題

 

現地水処理企業でのインターン

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研究活動と並行して、約二か月間、上水処理と下水処理を包括的に運営する、公営水処理企業でインターンを行いました。主な目的は、現地の水処理の現状を現場目線で知ることで、今後どのような改善が必要か考えることです。

そこで、インターンを通じて見えた主な処理方法、料金徴収体系などの現状に加え、発見した課題について、上水道、下水道に分類し述べていきたいと思います。また、インターンはほぼすべてインドネシア語で行ったため、(頑張りました。。。)細心の注意を払いましたが、多少事実と異なる内容が含まれる可能性も考慮して頂けると幸いです。

 

インドネシアの水処理は、PDAMと呼ばれる地域ごとにある公営の水処理企業により行われています。日本で言う自治体の水道局のような仕組みです。そこで、今回は私が滞在するバンドンにある、「PDAMバンドン」にてインターン活動をさせて頂きました。

 

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上水道部門トップの方とのミーティングの様子

 

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毎日二回行われる水質試験

 

海外からの支援による上水設備

まず率直な印象は、「思ったよりも処理設備がしっかりしている」というものでした。上水処理における設備については、オランダなどからの支援により、最新のモニターシステムが導入されています。処理方式についても、凝集沈殿法という日本でも一般的なプロセスが採用され、基本的に24時間の水道供給を実現しています。

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モニタリングシステム。流入水量などがリアルタイムでわかる

 

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処理設備の一部

 

また、良質な水道サービスを維持する上で重要な料金体系ですが、日本と同様に、水道に接続している家庭や工場にメーターが取り付けられ、使用量から徴収料金を計算する仕組みです。また、価格についてですが、ここでは各家庭においては家の大きさ、公共施設においては重要度、工場では規模の大きさにより同じ使用量でも水道水の価格が異なります。公共上最も重要と位置付けられているモスク(イスラム教徒がお祈りを行う場所)では非常に安い一方、大規模工場などは公共施設に比べかなり高くなっています。PDAMはこの料金徴収体系により黒字を維持しており、現状の水処理システムを維持するのには十分という事ですが、設備の更新や、さらに優れた処理プロセスの導入を行うには政府の援助が必要な状況のようです。 そのため、なかなか政府からの予算が来ず、更新が遅れてしまっている施設も少なくないようです。

 

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資金状況についてファイナンシャル部門にて 説明頂きました。

 

乾季における水不足

インドネシアには雨季と乾季があります。乾季になると著しく雨量が減るため、水源の水量も減少します。それに伴い供給できる水道水の量も低下するため断水が必要になってしまいます。しかもこの断水は予告なく行われるため、住民は非常に困ることになります。事前に断水実施を知らせる告知システムの確立、乾季時の水源不足に備えた河川以外の水源(雨水、地下水等)の有効活用などが必要になります。

 

年々上昇する高い無収水率

配水管の老朽化や、施工マニュアルが存在せず、間違った方法での施工による寿命低下、漏水対策の遅れなどにより無収水率(処理場で処理された水が、各家庭、施設に配水される途中において、漏水等により失われ、お金にならない水の割合)は2014年には33%でしたが、2016年には44%までに急増しています。要するに、せっかく水道水として使えるようにきれいにした水の約半数近くが使用者のもとに届かず無駄になってしまっています。この高い無収水率を改善することで、結果的に水源不足の解決や安定した財政基盤の構築にも繋がります。現在、この無収水率改善のために、バンドンと姉妹都市提携を結んでいる浜松市が技術提供を行っています。

 

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浜松市による漏水現場の視察 

 

処理により発生する汚泥はそのまま川に垂れ流し

これはかなりびっくりしましたが、処理後に発生する有機物、重金属などの汚染物質を多く含む汚泥は、処理されることなく河川にそのままポンプで垂れ流しているとのことでした。しかもどの程度の量を垂れ流しているのか誰も把握していないとの事です。これは水源汚染を悪化させることに繋がり、結果として処理コストの上昇に繋がります。早急な汚泥処理システムの構築が必要です。

 

日本製品に対する「高い」という第一印象

都市化に伴う水源汚染、水需要の増加により、持続的な水供給システムのために既存設備の更新が必要な状況となっています。そのため海外からの水処理製品も、インドネシアの仲介業者を通じ積極的に取り入れていこうという姿勢があるようです。この需要は優れた水処理製品をもつ日本としては大きなチャンスですが、現地責任者の声は、日本製品は高いから、、、」というのが現状であり、そのイメージから中々日本製品が選択肢にすら入らないようです。他国の製品に比べ、ライフサイクルコストも含めた経済性、性能のメリットを十分に伝え、理解してもらわないと大きなシェアを獲得することは難しいようです。 

 

下水処理場は早急な対策が必要

バンドンで発生する下水は、下水道管に接続されている場合は下水道管を通じてすべてBojong Soangと呼ばれる下水処理場に運ばれます。処理方式は安定化池と呼ばれる東南アジア諸国では一般的な、極めてシンプルな方式が採用されています。この方法では広大な湖において、自然浄化作用によって処理が行われています。しかし処理水は、インドネシアにおいて定められた排水基準を超える場合も多く、良好な処理状況とは言えない状況です。

 

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東南アジアなどでは一般的な「安定化池」と呼ばれる処理方法

 

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下水処理部門の方から現状の問題や今後のプランについてお話しいただきました

 

処理過程で発生する汚泥がほったらかしに

処理に伴い湖内で発生する汚泥(ごみ)が適切に処理されておらず、湖内に放置され年々蓄積しています。そのため、設計時に計画された良質な処理を行うために必要な水深のわずか5分の1程度まで浅くなってしまっており、これが処理水質の悪化を招いています。最後に汚泥の除去が行われたのはなんと10年以上前だとのことです。これだけ長くの間放置されってしまっている背景には、汚泥を取り除くには重機が必要であり、大きなコストがかかる事に加え、湖内から引き抜いた汚泥の効率的な処理方法が存在しないことなどが挙げられます。

この問題を解決するためには、まずはインドネシアの汚泥の特性を調べ、現地の状況に合わせた適切な処理方法を明らかにすることが重要になります。何とか本留学中にこれを実現できるよう日々研究室にて奮闘しています。

 

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処理場横に設置された汚泥を乾燥させて処理するための場所。最後に使われたのは10年以上前 

 

 以上、インターンを通じて感じたインドネシア、バンドンにおける水処理の現状と課題です。自身の研究分野と実際の水処理現場の繋がりを深く学べたことに加え、日本による技術提供の現場も拝見することができ、非常に有意義な機会となりました。

【インドネシアNo.1】 バンドン工科大学学生ってこんな人

インドネシア理工系トップの学生について

留学開始から早くも半年が経ちました。これまで研究や授業、学内での様々なイベントなどに参加する中で、バンドン工科大学の学生がどれだけ優秀か感じるとともに、自分自身刺激を受ける場面が多々ありました。

そこで、普段は中々知る機会のない、東南アジア理工系トップの大学の学生がどんな人たちなのかトいう事について、授業の様子、英語力、コミュニケーション能力の3点について、以下にまとめてみました。 

 

授業に対する積極性

こちらでの授業に対する生徒の積極性にはかなり刺激を受けました。一番驚いたのが、授業中に何人かの生徒が私語を始めると、それに対してほかの生徒が「シーっ」と言い合い私語をやめさせるんです。日本でそんな光景見たことありません。自分にはそんなことやる勇気もありません(笑)。しかしここでは当たり前のようにそれが行われ、授業に対し本気で取り組む風潮があります。もちろんそんな生徒たちですから、先生から質問が投げられると即座に反応します。なんなら先生が喋っている最中にも分からないことがあれば質問します。常に授業から新たな知識を得て自分のものにしようとする姿勢はトップ校ならではだと思います。

特にこちらの学生が優秀だなと思うのが、一度学習したことのある内容は、たとえそれが自分の専門外であって、何年か前に学習したものでもほとんど覚えています。自分の専門について全く違う分野の友達から質問された時、自分と対等な知識で会話をしてきたので、「何で分野全然違うのにそんなに知ってるの?」と聞くと、一回授業でやったことあるから~と当たり前のように返され、「そっか、、」としか言い返せませんでした。。積極的な授業への参加姿勢が知識を増やし、広い視野の形成に繋がっているようです。

 

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 授業でのグループディスカッション。めちゃめちゃ話聞いてくれます。

 

試験がやばい

こちらでは日本と同じように中間試験と期末試験があります。すでに中間試験を終えましたがこれがかなりやばいです。試験範囲となる資料の量が尋常じゃありません。具体的には50ページ以上あるみっちり字の書かれたパワーポイントが全部で30ファイル以上ありました。持ち込みもなしです。「いやこんなの全部目通して覚えられるわけないだろ。。。」とそうそうに見切りをつけた私は最低限必要そうな資料に絞り乗り切りました(笑)。しかし現地学生は2,3日くらいでその内容をすべて理解し、暗記してテストに臨んでいました。地頭が違うとはこの事かと身をもって思い知らされました。。(試験の際、開始と終了の合図もなく、終わった生徒から適当に席を外し、終了時間が過ぎても当たり前のように問題を解き続けている生徒がいるのを見たときは、ここでもインドネシアタイムかと少々驚きましたが笑)

 

非常に高い英語力

とにかくみんなめちゃくちゃ英語が喋れます。

ここへ来てから多くの学生と関わる機会がありましたが、英語を話せない学生に一人も出会ったことがありません。一人もです。例え留学を経験していなかったり、国外に出たことが無くてもです。しかも少し話せるというレベルではなく、ネイティブレベルに流暢な人も多く、日本の理工系大学とは全く異なる状況に圧倒されました。

 

というのもここでは英語で行われる授業が多く、卒論発表も英語で行わなければならない、さらには研究に使用する機器や分析方法についてのマニュアルもほとんど英語で書かれたものしかなく、生徒は当たり前のようにそれを読み、実験を行っている、といったように普段から英語に触れる機会がかなり多いです。この様な環境が英語力向上に大きく寄与しているようです。(もちろんずば抜けた地頭の良さも大きな理由の一つですが、、)

また、多くの学生が優れた英語力に加え、国内に留まっているのではなく、自国の成長のために、積極的に先進国の概念、技術を取り入れ、グローバルに活動していきたいという強いモチベーションを持っています。

 

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国連が定めるSDGs (Sustainable Development goals) についての授業後集合写真をパシャリ。

 

ハイレベル過ぎた国際シンポジウムでの意見交換

ある日、オランダから来た研究者によるシンポジウムがキャンパスで開かれ、それに参加したことがありました。

内容としては、オランダにおける河川計画や水源保全といった、持続可能な水環境への取組についてでした。本来その内容について色々感想を述べることができればいいのですが、私は英語が早口かつ流暢すぎて、概要を理解するのが精いっぱいという非常に情けない状況でした。。しかしその一方で、現地学生はプレゼンテーターの凝ったジョークにも毎回笑って反応しているし、いきなりマイクを渡され意見を求められても何事もないようにスラスラ答えていました。そして質疑応答の時間には、プレゼンの内容に対する鋭い指摘や、紹介のあったオランダでの事例を踏まえ、今後どの様な取り組みを自国で行っていくべきかといったトピックについて積極的に意見交換を行うなど、目の前で繰り広げられる世界トップレベルの場を目の当たりにして唖然としました。しかも参加していた現地学生の多くがまだ2、3年生であることを知った時、非常に大きな差を感じるばかりでした。

 

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国際シンポジウムの様子

 

 

修士号、博士号取得のために海外へ。教員を志す学生も多数

ここバンドン工科大学では、インドネシアNo1の理工系大学とはいえ、正直研究環境が整っているとは言えず、レベルの高い研究を行うのは難しいです。(別の機会に詳しく書きます)そのため優れた環境を求め、「より高度な研究を行い、その経験を自国の発展のために活かしたい」、「将来大学教員になりたい」という思いを抱える学生の多くが、日本を含めた世界各国へ修士号、博士号取得のため留学します。バンドン工科大学にはこのように海外で博士号を取得した教員が多数在籍しており、国際的なプロジェクトに取り組む方も多く、グローバルな校風の構築に寄与しています。

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 バンドン工科大学にて開かれた国際学会

 

 

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ドイツ、マレーシア、タイ等様々な国から参加者が集まったサマープログラムの一幕(ちゃんと毎日授業もしました。)

 

外国人に対する高いコミュニケーション能力

これはバンドン工科大学の生徒に限った話ではありませんが、多民族国家であるインドネシアは、同じ国内でも非常に多様な文化、言語、人が混在する国であり、外部からきた人間を受け入れる器がかなり大きいように感じます。留学開始時から今まで、外部から来た私に対して、非常に多くの現地の学生が親切にサポートしてくれました。すれ違った際に「研究の調子はどう?」と気さくに聞いてくれたり、「じゃあな!」などアニメなどを通じ知っている日本語を使って話しかけてくれたりします。また、日本語以外にも韓国語、中国語、ドイツ語なども少しできる人も多く、留学生と接するときにそれらを巧みに使い、すぐに仲良くなる様子には驚きました。たとえ出会ってから間もないとしても、スッと懐に入ってくるような高いコミュニケーション能力は、グローバル社会において非常に大きな武器となるに違いありません。

 

このようにインドネシア理工系トップの大学では、グローバルに活躍するために十分な英語力、モチベーション、技術に関する知識に加え、外国人に対しても躊躇せず、すぐに仲良くなれる人懐っこい性格を併せ持った優秀な人材が溢れています。将来それぞれの分野のトップで活躍していくに違いありません。

また、このままではこの猛烈な勢いに日本が飲み込まれ、どんどん縮小していく道をたどることになるといった強い危機感も感じます。多くの刺激をもらえるこの環境で、少しでも多くのことを吸収できるよう、残りの留学生活も悔いのないように精進していこうと思う次第です。

 

 

バンドンってこんなとこ

 知られざるバンドンの魅力

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バンドンに住んでから4か月ほど経ちました。首都ジャカルタ、観光地バリと比べ、バンドンは知名度も低く、こちらに来る前は「どこだよそこ、、、」と正直思っていました(笑)。実はここバンドンは、約250万人が住むインドネシアの第3の都市とも言われている主要都市です。

 首都ジャカルタから、車または電車で片道約23時間の距離に位置しています。また、空港もありインドネシア国内の各地、東南アジア諸国への便も毎日運航しています。今回はそんな知られざる都市バンドンに実際に住んでみて見えてきた魅力を紹介したいと思います。

 

魅力① 熱帯なのに、めっちゃ涼しい

熱帯に位置し、一年中暑いインドネシアですが、ここバンドンは高原地帯のためかなり過ごしやすい気候です。日本で言う夏の軽井沢や箱根などの避暑地の気候に近いです。日本の夏のような嫌な蒸し暑さもなく、気温は日中でも高くて30℃、夜は20℃を下回り半袖だと少し寒いくらいです。このような過ごしやすい環境を求め、ジャカルタや国外からも多くの観光客が訪れています。

 

 

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いつも木が生い茂るバンドン工科大学キャンパス内

 

魅力② 穴場の観光スポットがある 

バンドンには観光ガイドブックには載らないような壮大な自然を感じることのできる湖や山、おしゃれなカフェやお店など、観光としても十分に楽しめるスポットがあります。自然好き、カフェ好きの私にとってはかなりうれしいです。

 

 

 

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幻想的な白い湖のカワプティ

 

 

 

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本気のハイキングができるレンバン

 

 

 

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気抜いたら死にます

 

 

 

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こんな感じの本格的な修行もできるようです。

 

 

 

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夜遅くまでやってる店も

 

 

 

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いい感じのレストラン 

 

 

 

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 内装がすごいカフェ

 

 魅力③ 飯がうまくて安い

バンドンはジャカルタやバリなどと比べ物価も安く、ローカルレストランでは一食100程度で食べることができます。

ガチな屋台ではなんと約50円でナシゴレンなどが食べられますが、一度思いっきり腹を壊し1週間吐き続けるという死の恐怖を味わってからは手を出してません(笑)

 

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 しっかり野菜も取れます。

 

 

また、ザ・東南アジアといったイメージに反し、お洒落でかなりおいしいディナーが食べられるところもあります。

 

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 これでも1000円しません。かなりうまかった。

 

 

魅力④ 生活用品は何でもそろう

バンドンは日本と変わらないクオリティのショッピングモールやアウトレットも豊富で、生活用品に困ることはありません。SOGOダイソーといった日本でお馴染みの店も進出しており、日本製品も簡単に手に入ります。

 

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日本にあるもの見るとやっぱり安心します

 

 

 

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高級感漂うダイソー。ちなみに約250円均一 

 

 

 

 

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日本とほとんど値段が変わらないためユニクロは高級なイメージらしい 

 

 

魅力⑤ 他の地域に比べ治安が良い

インドネシアと聞くと、ジャカルタでのテロなど、治安の悪いイメージがあると思います。実際にバンドンに住む日本人の友人は、ジャカルタやバリでは盗難にあったりと、実際に被害にあっている人も多いです。しかしここバンドンでは、私は今までの生活の中で盗難や身の危険を感じたことは一回もありません。これは他の日本人、外国人留学生も口をそろえて言っています。もちろん油断のし過ぎは禁物ですが、これは実際に滞在するに当り非常に重要なポイントだと思います。

 

 

 

どうでしょうか、だいぶイメージとは違うと思います。

東南アジアの途上国のマイナーな都市、という勝手な先入観が実際に住んでみてかなり変わりました。今後のインドネシアの経済発展に伴い、ここバンドンもさらに都市として発展していくと思います。あと半年ほどどっぷり現地での生活に浸かり、引き続き魅力を探していけたらと思います!

 

 

 

unicefにて「水と衛生」についてお話頂き感じたこと

 

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今回、unicefジャカルタにて、インドネシア国内で行っている活動について日本人の職員の方からお話を頂く機会がありました。

 

 

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unicefオフィスがあるビル尾エリアに入るゲート、さらにはエリア内の一つ一つのビルの入り口でも手荷物検査などを行う厳重な警備が行われています。近年ジャカルタで発生しているテロが影響しているようです。

 

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ゲートをくぐると、外資銀行などの立派なビルが立ち並ぶ区画があり、その一角にunicefジャカルタがあります。

 

「トイレが無い」ことにより生じる健康問題

 

 unicefは、「すべての子どもが公平なチャンスを得られる世界を目指して」をモットーに世界中で活動していますが、その重要な活動分野の一つに「水と衛生」があります。

 

この分野は、SDGs国連本部で採択された持続可能な開発目標)でも早急に解決すべき課題として位置づけられています。

 

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SDGs目標6より)

 

この目標に向け、unicefジャカルタが行っている具体的な活動に、トイレの普及活動があります。日本に住んでいると、トイレが各家庭についているのは当たり前ですが、インドネシアではトイレが無いために、川など屋外で排泄をする人が国内に約5000万人ほどいます。これは世界でも2番目に多いと言われています。

これにより生じる不衛生な環境が原因で、年間約15万人の子どもが、5歳になる前に下痢により亡くなっているそうです。具体的な下痢を引き起こす経路としては

 

①オープントイレ(トイレを使用しない屋外での排泄行為)により水源が汚染される

②発生したハエ、そこで遊ぶ子どもなどを媒体とし、排泄物が家庭内に入り込む

③それにより汚染された、高濃度の大腸菌を含む飲料水を飲むことにより下痢を引き起こす

 

といった流れになります。実際に、トイレを使用せず、川など排泄をしている家庭の子どもが、自宅にトイレを持つ家庭の子どもに比べ、約66%も下痢で苦しむ子どもの割合が高いことが分かっています。このような課題を改善すべく、unicefインドネシアは政府などの協力機関とともに、トイレの設置、普及活動などを行い、衛生環境改善に取り組んでいます。

 

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unicefインドネシアHPより)

 

しかし、新しくトイレを設置すれば、はい、問題解決、と簡単にはいかないようです。

 

トイレ普及を拒む難しい課題とは

 

生まれながらトイレが無い生活を送ってきた住民たちは、「そもそも何でトイレを使わなきゃいけないの?」と利用する理由を理解していないケースがあるそうです。そのため、新たに設置したトイレが利用されずに放置されてしまう場合も少なくないのだそうです。

また、宗教的な慣習などが適切なトイレ利用の障害になるといった問題も存在します。我々日本人にとってなじみの薄い宗教ですが、それが人々に与える行動様式、習慣への影響は極めて大きく、時にはこのような課題に繋がってしまうこともあるようです。

 

このような現状を改善すべく、unicefでは設置の際にトイレを利用することの重要性を伝える教育活動や、設置されたトイレが適切に利用されているかどうかを確認する調査などの活動を行っています

 

正直、トイレがある生活が当たり前の環境で育った私たちには、「トイレがあるのに使わない理由が分からない!」と思ってしまうのが実際のところですが、自分の中の物差しだけでなく、相手の立場で問題を考えていかなければならない、というグローバルに活動する上で必須の考え方について再認識しました。これについては頭では分かっていても実施するのはかなり難しいことだなと思います。

 

そして、水に関する衛生問題を解決する際には、設備といったハード面だけでなく、人々の意識や習慣、文化を根本から理解した上での教育活動、といったソフト面の重要性を改めて感じました。ここが不十分だと、新たな設備を導入しても慣れ親しんだスタイルを変えてもらうだけの説得ができません。結果として住民の環境改善意識を高めることができず、ただの技術の押し売りになってしまいます。

 

よって、人々の行動指針を形成する文化や宗教といった抽象的な事柄と、製品や技術開発を切り離して考えるのではなく、全ての繋がりを意識した技術開発体制を整えることが課題解決には不可欠だと感じた次第です。

 

 

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unicef訪問時の写真  左から・Herto先生(バンドン工科大学)、小田切様(unicef 職員)、山村先生(中央大学

 

 

 

現地で目にした水環境の現状・課題から対策を考えてみた

皆さん、日本で生活する中で、使用した水がその後どうなるか意識したことがあるでしょうか。 普通に生活していればなかなかそんな機会はないと思います。。。

なぜなら、日本では日々の生活で使用した水(下水)は下水処理場にて適切に処理され、河川などに放流されるのが当たり前だからです。しかしここインドネシアをはじめとする東南アジア諸国では全く状況が異なり、下水道整備はかなり遅れているのが現状です。

 未整備の衛生環境による莫大な経済損失

東南アジアは世界の他の地域と比較しても、適切な処理がなされない下水などが原因で発生している健康被害、水源汚染等による経済的損失は莫大であり、インドネシアに至ってはその額は7兆円にも及ぶと言われています。

 

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(引用:https://www.lixil.com/jp/sustainability/sanitation/findings.html

 

東南アジア諸国では、今後さらなる経済発展、人口増加に伴う水処理需要の増加が見込まれる中、このままではさらに水環境に関連する問題が深刻化することが懸念されます。逆に考えると、この問題は人々の生活に直結するため、今後必ず国から投じられる予算が増えていき、本分野において優れた技術、ノウハウをもつ日本にとっては大きなビジネスチャンスと捉えることもできます。このチャンスをものにすると同時に、各国の水環境改善や、さらなる経済発展に貢献できるとしたらかなりハッピーじゃないか、と個人的に思っています。

 

そこで以下に、実際に現地で目にして感じた現状や課題から、今後インドネシアにおいて水環境改善のためにどのような対策が必要であるのかを、少し専門的な観点と、今話題のIoTの活用などを交え、自分なりにまとめてみました。

 

バンドン唯一の下水処理場 「Bojong soang」

インドネシア第三の都市と呼ばれ、200万人以上の市民を抱えるここバンドンには、なんと一か所しか下水処理場がありません。それがこのBojong sonangです。

 

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この広大な湖のように見えるのが、安定化池と呼ばれる下水を処理する池になります。この方式は低コストでメンテナンスが容易なことから、東南アジアを中心に多く採用されています。日本の下水処理では多くの場合、活性汚泥法と呼ばれる高度な処理が行われますが、この処理方式において下水の浄化に利用されるのは、重力と湖内に棲む微生物による代謝のみです。

一見安価で優れた方法に見えますが、実際に訪れたところ、運転管理に問題が確認されました。具体的には、汚水が浄化される際に発生するゴミ(汚泥)が取り除かれずにそのまま湖内に放置されているため、処理効率が低下してしまっていました。結果として、定められた排水基準を満たせていない処理水がそのまま環境中に放流されているとのことでした。

湖内に蓄積した汚泥の適切な引き抜き作業が行えていない理由として、汚泥を脱水し、肥料として有効利用するために必要な天日干しを行うスペースが埋まってしまっていること、広大な敷地のため頻繁に汚泥を引き抜く作業を行うことが難しい等といった理由があるようです。

インドネシアでは、今後国家計画として下水道普及を進めていくとしていますが、このままでは下水処理場を新設しない限り、処理場への下水の流入量を増やすことは厳しいと感じました。持続可能な下水処理システムを構築するには、この汚泥を効率的に、安価に処理するとともに、有効利用する技術がキーになりそうです。このような技術の開発を目指し、現在バンドン工科大学にて、日本の技術利用を視野に入れた処理システムの研究を進めています。

 

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(実際のサンプリングの様子)

 

下水道未整備の地域では

現在私のいるバンドンでは、コストの問題、地形の問題などでそもそも下水道に接続されていない住宅密集地が数多くあるのが現状です。そのような地域ではどのように生活排水やトイレの排水処理が行われているのかというと、コミュニティ浄化槽と呼ばれる、小型の簡易な浄化設備が各地に設置されているケースがあります。(http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/)これを利用することで、個人レベルで安価に排水処理を行なうことができるため、下水道未接続地域が多く残る東南アジアでは非常に注目されている技術です。実はこの技術、日本では古くから開発が進められ、既に日本製の浄化槽が東南アジアにおいて導入されているケースも存在します。

 

しかしながら、実際にある住宅地にて設備を見てみると、全く適切な運転管理がなされておらず、排水が未処理のまま垂れ流しになっているのが現状でした。ある報告によると、正常に機能している浄化槽は全体の内、約5%に過ぎないとのことです。(http://indonesia-news.biz/?p=3758)せっかく優れた性能を持っている設備を導入しても、適切に利用、管理されなければ意味がありません。

 

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 (放置されて使われていない浄化槽)

 

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(未処理の排水が直接河川などへ流されている)

 

原因としては、住民の水環境への意識の低さや、運転管理ノウハウが理解されていないことなどがあるようです。結果として浄化槽は故障したまま放置され、未処理排水による河川の汚染が進んでしまっています。これを防ぐには、適切な管理が行われていない地域をいち早く発見し、適宜指導を行うことや、定期点検によるメンテナンスへの介入が最も重要だと思われます。しかし、多くの地域にバラバラに設置された浄化槽について効率的に運転管理の状況を確認することは現状では極めて難しいかと思われます。

 

これまでに上げてきた以外にも多くの課題が存在しますが、以下に今回感じた問題点とそれに対する解決策を自分なりにまとめてみました。

 

問題点のまとめ

下水処理場からの排水が環境基準を満たせておらず、このままでは下水道普及率の上昇に伴う処理水量の増加に対応することが難しい。今回紹介した安定化池という処理方式では、発生する汚泥が適切に処理されていないことが処理効率低下の原因となっている。

・コミュニティ浄化槽は、下水道未接続地における水環境改善に寄与することが期待されるが、適切な運転管理が実施されず正常に機能していない場合が多い。そもそも各地に散らばって設置されている浄化槽について、効率的に運転状況を把握し、必要な対策を行うことが難しい。

対策

・処理により発生する汚泥の効率的な処理の導入が必要不可欠化だと思います。広大な敷地を要する、天日干しによる肥料化以外の汚泥の有効利用、処理方法(汚泥中の有機物を微生物の代謝によりエネルギーとして利用可能なバイオガスに変換し利用する等)の検討、導入が必要になってくるかと思います。

 

・浄化槽にIoT(Internet of Things)を導入し、位置情報や運転状況の可視化により、地域ごとの一括管理などができれば、住民への技術指導や定期点検の効率化などが実現できるのではないかと考えています。例えば、可視化されたデータを利用することで「あそこの地域の浄化槽、定期点検から間もないのに全体的に処理効率が落ちてるな。おそらく住民による運転がうまく行われていないから一度正しい運転方法の指導に出向いた方がよさそうだな」といったようなアプローチを行うことが可能になると思います。ゼロからそのようなインターネット機能を持つ浄化槽を開発するのは難しいかもしれませんが、既存の機器に設置するだけでモニタリングを行うことができる小型のタイプの製品がすでに日本企業により開発されたりしています。(http://economic.jp/?p=74796)このような最新技術と掛け合わせることで、浄化槽の持つメリットを最大化できるのではないかと思います。

 

・日本のように下水処理場にてすべての下水を処理する“集中型処理”はインドネシアをはじめとした東南アジアでは事情が異なり難しいと思います。したがって下水処理場による集中型下水処理と、浄化槽を利用した個人レベルの分散型下水処理を効率的に組み合わせていくことが重要になるかと思います。ガラパゴス携帯が普及する前にスマートフォンが急速に普及した国があるように、しっかりとした既存のシステム基盤が存在しないからこそ、IT技術を掛け合わせた効率的な次世代型システムをゼロから導入することができるのではないかと思っています。

 

以上、グローバルな視点からとらえた水環境の問題の現状、解決策が少しでも視野を広げるきっかけとなれば幸いです。